2013年04月25日

ネパールへの旅 vol.14 ヒマラヤ~アンナプルナB・C


3月9日(土)


こっちにも色々と言いたい事がある、と脚を蹴られた息子が言った。


ゲストハウスに着いたら話すとの事。


いつでも何でも聞いたるよ、と私。突然なんか妙に冷めてしまった。


暴力で脅かして少しはスッキリしたんやろな、とむなしく自己嫌悪する。



ネパールへの旅 vol.14  ヒマラヤ~アンナプルナB・C

マチャプチャレB・Cのゲストハウスが薄っすらと見えている。本格的に雪山になってきた。



 酸素が薄くなってきてる影響か、前日までとは違うハードなルートのせいか、


約800mの高低差を登るのが予想以上に苦しい。


ツアー登山などでは、一日に約500mほど登る日程で組んでいる。


高山病予防にもそのくらいがベストらしい。


それと比較すると800mでもそこそこの高度を稼いでいるのだが・・・。


少し登ってはゼエゼエと立ち止まる私と、あまり疲れた様子もない息子。


この冬には、ヒマラヤを想定して、奈良の雪山に通ってカラダを鍛えてきた。


出発前の日曜にも、息子と六十谷の山を歩き、体力的には同等のレベルくらいには


なってるんじゃないかと思っていたが、やはり若さのパワーは恐るべしである。


最後あたりはかなり雪深くなった道を、やっとの思いでマチャプチャレB・C(3700m)に到着!



ネパールへの旅 vol.14  ヒマラヤ~アンナプルナB・C

ヨーロッパ、中国、韓国、日本、ネパール。食堂は興奮気味のトレッカー達でにぎやかだった。



あたりに白く煙るガスのために、神々の山、聖峰マチャプチャレは全く見えない。


ポカラのゲストハウスの屋上で、この聖峰を初めて見たときから


その峻厳な容姿に心を奪われていた。男なら誰でも憧れるであろうカッコよさである。



当初の宿泊予定地はここだったのだが、このままアンナプルナB・Cまで行けないか思案する。


地元のポーターと話すと、この雪では2~3時間くらいは必要だろうとの事。


地図をみれば、迷う心配もなさそうな尾根づたいの一本道だ。高低差はあと430m。



ネパールへの旅 vol.14  ヒマラヤ~アンナプルナB・C

Annapurna Base Camp (South) 4130mが目指すゴール地点!



心配なのは、日没までの時間があまり残っていない事。今は午後2時すぎである。


さらにこの視界をさえぎるガスと、私の残り少ない体力。条件的にかなり難しそうだ。


やはり今日はここに泊まる事にしようと息子に告げる。



ゲストハウスの庭に、前日に顔見知りになった韓国人トレッカー達が座っていた。


昼食を取るという彼らと共に食堂に入り、砂糖いっぱいの熱いジンジャーティーを飲んだ。


ポーターとガイドを連れた麻酔科医のインさんは、韓国からではなく、


アフガニスタンからやってきたという。


現地で活躍するいわゆる「国境なき医師団」のメンバーだった。


今朝も出発前のインさんにお願いして、ドルをルピーにこころよく両替してもらった。


とても紳士的で、キリッとした顔立ちのナイスガイである。


ルピーがなければ、この山中ではヤバイところだったのでホントに大助かりだったのだ。




中国から来た女性二人組と白人男性のグループに話かけられた息子が拙い英語で頑張っている。


色んな国籍で囲まれた賑やかなテーブルで、スニッカーズをかじり、粉末アミノ酸を補給した。


どうやらインさん一行は、この後アンナプルナB・Cに向け出発すると言う。



インさんに雇われた地元のガイドやポーターが、今からでもA・B・Cまで行けると


判断しているということだ。この天候のコンディションでも。


へんな負けん気が出たわけじゃないが、インさん達が行くのなら私たちも行きたくなってきた。


休憩して、栄養を補給したせいか、身体にまたチカラが甦ってきている。



「よっしゃ!やっぱりアンナプルナまで行くか!」


突然、張りきりだした親父に、息子が眼鏡を指で上げクールに聞いてくる。


「さっきまでフラフラやったのに、そんなんで行けんの?」


俄然ヤル気になってしまったね。 「体力戻ったよ、よし出発しよか」






ゲストハウスを出発し、着け方を教えながら、山に来て初めてアイゼンと


足首から雪が入ってくるのを防ぐスパッツを装着した。


この時のためだけに、旅行中これらの道具を持ち歩いてきたのだ。


いよいよ旅のハイライトがやってきた。


しかし白いガスで覆われて何も見えない進行方向を仰ぎ見ると、


さすがに不安な気持ちになってくる・・・。



「なぁ、行くん止めとけへん?」と横で息子が言う。


「さっき、中国の二人組が今日は危ないから止めたほうがいいって言ってたよ」


そんな事を息子に言ってたのか、私には話しかけても来なかったのに・・・。



「こんだけくっきり足跡が付いてたら、たとえガスで1mくらいしか見えなくなっても大丈夫だ」


「いざ無理となったら、来た道は戻ってここに帰って来よう」


「だいじょうぶやから、俺を信用してくれ」



「別に無理して行かんでいいやん」と息子、確かにそう言われればそのとおりだ。


少し強引なのは自分でも自覚している、確実に安全に行くなら明日にすればいい。


しかし色んな状況を考えた上でも、危険は少ないと判断した自分の考えを尊重したい。


少ないキャリアだが、これまでの雪山の経験から照らし合わせても大丈夫だと思える。


そして結局は、なによりも少しどきどきした冒険心を味わいたかったのだ。


実際、この現状にわくわくした気持ちを感じていた。舞台はヒマラヤなのだ。


じつはそれが大方の理由であったと思う。


ただそれをストレートに息子に伝える事ができなくて


もっともらしい事を言って息子を説得していただけなのだ。


安全、安全と口うるさく言っていた立場上、苦しい説得工作になってしまう。




「行くの怖いか?」 我ながらずるい事を聞いてしまったもんだ(笑)。


「別に怖いって言ってないやん、二人組にあんな事言われたから気になるやろ」


「よし行こう!」



次号につづく・・・




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