2013年04月27日

ネパールへの旅 vol.15 アンナプルナ・ベースキャンプ



3月9日(土)


ときおり強い風が吹き、顔に細かい氷の粒があたってくる。


白いガスは少しずつ薄らいできた、高度はもう4000mを越えている。


ゴールはまだ見えないが、もうそんなに遠くないところを歩いてるはずだ。


すぐ息があがってしまうのは相変わらずだが、自分が思ってたより力強く登って行ける。



後ろを振り返ると、いつもどおりの淡々とした表情と足取りで息子が歩いてくる。


二人きりで白い世界の中を、黙々と歩く。ざくざくと雪を踏む音と互いの呼吸音。



「なんやかんや言っても、俺らは一緒にここにいるんやな」


なぜか急に、ふたりで今こんなところにいる事がとても不思議な気がしてきた。


私の思いつきに付き合わせて、こんなところまで連れて来てしまったんやな。


文句を言いながらも、よく付いて来てくれたもんだ。と感慨深くなった。


そう考えると、生意気な息子がなにやら健気に思えてきた・・。ほんのすこしだけやけど(笑)



やがて薄もやの向こうにゲストハウスが現れ、あっけなく無事ゴールにたどり着いた。


思ったより感動はないが、それは予想していたことで、私はいつもそんな具合なのだ。


とうとう来たなという達成感をじんわりと感じながら、息子と握手をかわした。




ネパールへの旅 vol.15  アンナプルナ・ベースキャンプ

ゲストハウスの部屋の前で、雲の間から、山の先端を覗かせているのが聖峰マチャプチャレ。




チェックインしたゲストハウスのオーナーは厨房で忙しく料理をしていた。


到着した興奮でハイテンションな白人たちで食堂は占拠されていた、すごい熱気で、


みんないい笑顔をしてる。



オーナーは無愛想に、敷地の奥にあるもうひとつのゲストハウスを指差した。


そちらも彼の経営だと言う。


離れのゲストハウスは、若いネパール人スタッフ達にすべてをまかせていた。


そしてどうやら、こちらをアジア人専用にしているようだ。


オーナーの意図はよくわからないが、人が少なく静かなこちらの方が私にはとても有難い。





 ネパールへの旅 vol.15  アンナプルナ・ベースキャンプ

ゲストハウスの飼い犬だろう、賢そうでおとなしい犬だった。




 ネパールへの旅 vol.15  アンナプルナ・ベースキャンプ

気温は低いが、空気はとても乾燥していた。部屋の裏には雪がぎっしり、中は冷蔵庫状態だった。



「なぁ詩、そろそろ聞かせてくれへんか」 とベッドに座る息子に言った。話す息が白い。


息子の名前は、詩朗(ウタロウ)という。名づけ親は、当時24才だった私だ。



やっと訥々と話し始めた息子を見ていると、それだけで少し嬉しく感じてしまった。


ときおり言葉につまりながら話す、息子の思いを全部聞いた。


細かい事もいくつかあったが、彼の不満の大本の原因は、


「威圧的で命令的な、私の態度と言動」だと言う。


私をそういう風にさせるのはそっちが・・・という思いもあったが、


わたしの心のどこかで、私がお前を養っているのにとか、


私の稼ぎでこんな旅もできているのにとかいった、上から目線の思いがあったのは確かだ。



息子の言動と態度にやさしさが感じられないからと、私まで対抗してしまっていた。


彼なりに色々頑張って、緊張して、チャレンジして疲れてたのだろう。


まず私の方から、もっと気遣いのある接し方をするべきだったと思う。


息子に対する自分を客観視できたら、自分のいたらなさも良くわかった。


「いろいろゴメンな、これから気をつける」と息子に謝った。もうこれ以上ギスギスした空気で


一緒にいることがツライ、仲良くまでとは思わないが以前の普通に戻りたかった。



最後にナミダ声になりながら「二人しかいない山の中やのに、暴力はやめてほしい」


と言われ、深く謝った。申し訳ない。



「俺らはふたりとも言葉が足らなさすぎやったと思う」、照れや家族間の甘えか。


もっときちんと言葉にだしてお互いの気持ちを伝えていこうと息子に言った。


「正直しんどかった。これからは楽しい旅にしような」


こうしてひとまず、親子ゲンカは一件落着した。


しょうもない争いを、長らく引っぱってスイマセンでした<(_ _)>




ネパールへの旅 vol.15  アンナプルナ・ベースキャンプ

話し合いが終わって外にでると、ガスが消えさり、8000mの圧倒的な姿が。




ネパールへの旅 vol.15  アンナプルナ・ベースキャンプ

めずらしい地元ネパールのトレッカー達、高校生みたいにはしゃいでいてカワイかった。



私達の確執が消え去ると、タイミングよくガスも消え去り、太陽も少しのぞけた。


晴れ晴れした心で、あらためて360度に広がるヒマラヤを眺める。


やっと神々の山と向かえ合えた気がする。


月並みな表現だけど、そこは想像したとおり言葉でも写真でも表せない圧倒的な風景だった。



息子は、白人トレッカーが集まる食堂が気に入ったみたいで、一人でそちらに行っている。


あんな英語の嵐の中によくいてられるもんだ、頼もしくて嬉しいことだけど。



次号につづく・・・






同じカテゴリー(ヒマラヤトレッキング、ネパールへの旅)の記事画像
旅から六ヶ月後
ネパールへの旅 最終章 「それぞれの旅へ」
ネパールへの旅 vol.24 ボダナート
ネパールへの旅 vol.23 パティパシュナート寺院
ネパールへの旅 vol.22 カトマンズ散策
ネパールへの旅 vol.21 再びカトマンズへ
同じカテゴリー(ヒマラヤトレッキング、ネパールへの旅)の記事
 旅から六ヶ月後 (2013-09-16 11:59)
 ネパールへの旅 最終章 「それぞれの旅へ」 (2013-06-13 14:04)
 ネパールへの旅 vol.24 ボダナート (2013-06-07 13:31)
 ネパールへの旅 vol.23 パティパシュナート寺院 (2013-05-30 11:50)
 ネパールへの旅 vol.22 カトマンズ散策 (2013-05-23 13:07)
 ネパールへの旅 vol.21 再びカトマンズへ (2013-05-17 13:26)

この記事へのコメント
言葉にする事って
本当に大切と
思います。


言わなくても
わかるだろうは
とっても自分本意。


よかったね(*^^*)
Posted by shimon at 2013年04月27日 16:21
shimonさん

なんか実感がこもってるような?shimonさんの話す言葉は、いつもわかりやすくて、正々堂々としていてカッコいいですよね。
私も見習いたいです!
Posted by タケシタケシ at 2013年04月28日 03:42
親であって目線が友人同士のような素敵なお父さんだなって思います❤
なかなか親子でこんな体験は出来ないですよね♪
一緒に行動し濃密な時間を過ごすことができること自体、いい親子関係だと感じます(^^)v
「こども」ではなく一人の人間として認めて接することは親としての「自立」かもしれませんね❤

6月に朗読で和歌山に伺います♪
O氏の書き下ろし作品 もしお時間あれば今のmikiさんにぜひ聴いていただきたいなって思います❤  よろしく(^^)/
Posted by miho at 2013年04月28日 21:49
mihoさん

素敵なコメントありがとうございます!
また朗読の日と時間を教えてくださいね~
Posted by タケシタケシ at 2013年04月30日 02:44
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。